COVID-19に対する緩徐で持続的な介入の公衆衛生および経済面における優位性
Superiority of mild interventions against COVID-19 on public health and economic measures
(著者名)
Makoto Niwa(1),(2),(3), Yasushi Hara(3), Yusuke Matsuo(4), Hodaka Narita(4), Lim Yeongjoo(5), Shintaro Sengoku(6), Kota Kodama(1),(3),(7)
(所属)
- (1) 立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科
- (2) 日本新薬株式会社
- (3) 一橋大学大学院経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター
- (4) Retty株式会社
- (5) 立命館大学経営学部
- (6) 東京大学未来ビジョン研究センター
- (7) 北海道大学大学院薬学研究院 創薬科学研究教育センター
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(要旨)
2020年のCOVID-19の世界的な流行期において、日本の行政介入は段階的対応であった。すなわち、ヨーロッパのいくつかの国々とは異なり、移動制限や罰則規定などを設ける完全なロックダウンを行わないという点で限定的なものであったにもかかわらず、比較的低い感染者数を維持した国のひとつであった。
なぜ、こうした「ゆるい (loose)」ロックダウンは感染抑止に寄与したのか?その構造を探索するため、日本の行政介入の情報及び心理的影響の情報、並びに東京都域における感染者数・人流・飲食店来店数・飲食店の電子口コミ(eWOM)数のデータを利用し、システム・ダイナミクスモデル (SD Model) を用いCOVID-19感染拡大に対する行政介入、公衆衛生及び経済の相互影響を分析した(図1)。このとき分析にあたってはTDB-CAREE が収集した
TDB-CAREE消費者心理調査 を用いた。また、人流データに関しては
株式会社Agoopのデータセットを、飲食店の来店数および eWOMに関しては
Retty社のデータセットを利用した。
こうした因果ループ分析から、経済的な懸念によって感染抑止に関わる行政介入が未成熟なまま打ち切られるリスクが示唆された。定量的モデリングとシミュレーションによると、先制的に自宅待機を要請し短期で解除する手法は短期的には感染拡大を抑制するが、解除に伴い感染が再拡大することが判明した。一方、自宅待機を追加実施したとしても、飲食店の来店やeWOMといった経済指標への悪影響は限定的であった。これらの結果は、新型感染症流行下での長期的な対策としては、断続的な強い介入に比べて、穏やかで継続的な介入の方が優れていることを示唆するものである(図2)。