(要旨)
平成28年度に内閣府経済社会総合研究所が主体となって「組織マネジメントに関する調査 (JP MOPS)」を開始した。平成28年度の調査では製造業、飲食小売業、情報通信サービス業を調査の対象とし、平成30年度の調査では卸売業、道路貨物運送業、医療業を対象とした。
JP MOPSの大きな特徴は、サーベイの回答を利用してマネジメントのあり方を定量的に捉えられることである。この定量化の試みにより、管理とインセンティブの観点から事業所の現場の“マネジメントの質”を数値化し、マネジメントスコアを作成できる。具体的には、(a)問題対処と改善に関するモニタリングの充実度、(b)生産・サービス目標などの設定の適切さと共有度合い、(c)ボーナスによるインセンティブ設計の適切さ、(d)実績による昇進システムの構築、(e)不良勤務者に対しての解雇や配置転換の5つの項目から現場のマネジメントを評価している。マネジメントスコアが高いと、現場のマネジメントにおいてベスト・プラクティスが多く採用されており、現場のマネジメントが管理とインセンティブの観点から構造化されていて、“マネジメントの質”が高いと解釈できる。
JP MOPSデータに工業統計などの政府統計、そして帝国データバンク社の企業情報を接合し、(1) 構造化されたマネジメントと生産性の関係、(2) 構造化されたマネジメントの決定要因、(3) 構造化されたマネジメントと労働分配率の関係を明らかにすることが本研究の狙いである。
本研究のデータ分析により、以下の5つの事が明らかになった。
結果(1): どの産業でも、マネジメントスコアのばらつきが事業間で大きい。(図表1)
結果(2): 構造化されたマネジメントの決定要因は、産業間で大きな差異はない。
結果(3): 5つのサービス産業では、事業所が競争相手を認識すると、マネジメントスコアが高くなる。
結果(4): マネジメントスコアが高い事業所や企業は、生産性が高い。(図表2)
結果(5): マネジメントスコアと労働分配率に負の相関がある。
結果(1)の意味することは、ベスト・プラクティスを多く採用している事業所もあれば、ベスト・プラクティスをほとんど採用していない事業所も存在することである。結果(2)によって、共通した要因がマネジメント・プラクティスの採用に影響を与えていると考えられ、結果(3)はその要因の一つとして競争環境が重要であることを示している。そして、結果(4)は、構造化されたマネジメントが生産性に影響を与えることを示唆している。事業所間や企業間の生産性のばらつきをマネジメントスコアのばらつきで全て説明できるわけではないが、マネジメントスコアが10%から23%程度寄与していると考えられる。(図表2を参照)。構造化されたマネジメントが生産性を向上させる一方で、結果(5)が示すように、マネジメントスコアと労働分配率は負の相関関係となっている。構造化されたマネジメントによる生産性の向上が、比例的に給与支払いの増加に繋がっているわけではないことを示している。
現在の日本において、生産性の向上は喫緊の課題となっている。生産性向上におけるマネジメント・プラクティスの役割は決して小さくなく、現場のマネジメントを適切に構造化することによって生産性を向上させる余地が残っている。
図表1:マネジメントスコアの分布
図表2:マネジメントスコアと生産性の関係
(注) ***は係数が1%以下の有意性であることを示す。90-10 スプレッドへの寄与度は、生産性の90パーセンタイルと10 パーセンタイルの差異に対するマネジメントスコアの寄与度を示す。